同棲中彼は、顔だけかも、しれない。
 ……は?
 何、それ。
 ここを出たら、行くあての無い私への切札のつもり?

 再び、今度は顔まですっぽりコタツに潜りこんだアタルの表情は見えない。

 「あっ……そ……」

 私が居なくなっても生活を支えてくれる女が見つかったわけね。――出会い系で!

 私は、出社準備と一緒に簡単な荷造りをして、まだ朝の六時半だというのに家を出た。

 「さ、むっ」

 昼間は暖かいのに、朝晩は冷える。
 心も冷えきったまま、取り敢えず会社に向かう事にした。
 いつも自転車で通勤していたが、これは元々アタルの持ち物。少し考えて……、

 「…いいや、餞別に貰っておこう」

 この四年、アイツとの生活に使った金の総額を思えば、自転車一台くらいどうってことない。



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