同棲中彼は、顔だけかも、しれない。
 さっきからシバシバ言ってるが、この柴犬は別に可愛がってる愛犬ではない。
 元々、私は動物が苦手なのだ。
 じゃあ、同棲中のアタルの犬かと言えばそれも違う。
 今、私達が借りているボロ一軒家の家主の犬だ。

 家賃一万円。
 破格なのには訳がある。

 家主はアタルの親戚で、転勤族。
 先祖から引き受けた築90年の家を、シバの世話を条件に貧乏な彼へ貸出している。

 だから、雨漏りしたって白蟻や鼠が出たって自分達で何とかするしかないのだが。

 我が家にはお金がない。
 プー太郎のアタルと安月給の私。
 手取り収入十五万円。
 
 生活費は家賃を入れて七万円、私の唯一の肉親・母の入院費が八万円で、貯蓄は全く出来ない現状。
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