同棲中彼は、顔だけかも、しれない。
 ″そんな男とは別れれば? ″

 誰しもそう思うはず。 
 だけど、それが出来ないのが、情 。
 いつか変わってくれると信じたいのがアラサー女の悲しいところ。

 それに、出会った頃はアタルも優しかったのよ。

 あれは五年前、私が二十四歳の時。
 唯一の家族である母の病が分かり、急遽入院させた夜だった。
 
 追い討ちをかけるように、当時付き合っていた彼氏の浮気が発覚。
 傷心のまま、タクシーを待っていた私に声をかけてきたのがアタルだった。

 『おねえさん何で泣いてるの?』

 私の事を ″おねえさん ″と呼んだアタルは同い年だったが若く見えた。
 
 汚れた作業着に不似合いな、繊細で整った顔立ちには、つい見入った。
   
 片手には酒が入ったコンビニ袋、脇には古そうな文庫本が挟んであった。
 
 何もかもアンバランス。
 元々面食いだった私が、一目で惹かれたのは言うまでもない。

 『それはツイてなかったねぇ』

 『うん、最悪……』

 ビールをチビチビ、歩きながら私の話を聞いてくれたアタルが、駅の駐輪場を指差して言った。

 『ツイてないついでに、俺の愛車を運転してくんない?』
 
 『は?』

 『飲酒運転になっちまう』

 ニカっと、何とも憎めない笑顔で自転車を引っ張ってきた。 二ケツで女の私に漕げ、と?

 『そんで、そんまま俺んちで飲もうぜ』

 

 
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