海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜

第4話 夏王朝の辺境を護る者たち

さて。何度目の目覚めになるのであろう。

次にハッと気づいた時には⋯砂埃がもうもうと舞う、どこぞの軍の陣営の中。

日本には自衛のための軍はあるが⋯⋯一見して、それじゃあない、ってことくらいはわかる。

まず、迷彩服ではない。
まるで⋯時代劇のような出で立ちだ。

屈強な男たちが、号令に従って、ひたすら剣を振る。そんな泥臭くも、勇ましい現場。

「⋯⋯⋯」

日に焼けた者達の、汗が飛び散り⋯猛々しくも一糸乱れぬその動きを、目を凝らして眺める。

真剣なのか、模造刀なのか⋯。
フィクションなのか、ノンフィクションなのか。

銃砲刀剣類登録証がなけりゃあ、銃刀法違反になる。日本ならば、だけれども。

「⋯⋯うーん⋯」

また、知らない世界に来たのか?と、見極めようと本能に従って立ち上がろうとしたその時に、自分が縛られて身動きできないことに気づく。

「⋯⋯?!」

こともあろうに、大きく太い木の幹に、ぐるぐる巻きに固定されてるじゃあないか。

(こんな、森の奥のような場所に⋯なぜ)
と、大きな疑問を抱えたその時に、視野に飛び込んで来たのは⋯

大男達の中で、一際光を放つ、あの男。
ドスの利いた低音ボイスで、偉そうに号令を掛けて統率しているその主は。

「秦広王!!おーい、秦広王!」

見知っている顔がいることにひとまず安堵し、助けを乞う。

が、肝心の秦広王は完全スルー。
それどころか、訓練中の男衆も、一切こちらに目を向けることもない。

「ねえってば。ちょっと⋯
まあ、無駄か」

もちろん、一応はわきまえている。
重罪と言った本人が、助けることはしないであろうことくらいはわかっているのだが⋯フィクションであれば、機密裏のストーリーのおかげで、いつの間にやら状況が変わっているって事案は多々あるので⋯一縷の望みをかけてみたのだが。

「ダメか」

どうやら、裏ストーリーはないらしい。
⋯作戦変更だ。

孫子(そんし)(いわ)く。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり(※兵法より)」

そう。戦わずに相手に勝つことが、最善の策である。


私は再度叫んで。それから⋯ぐったりと頭を垂れる。渾身の気を失ったぞ、アピールだ。



< 15 / 83 >

この作品をシェア

pagetop