海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「⋯⋯⋯。」
けれど、待てど暮らせど号令は止まなくて。
声を掛けて来る者もおらずに。
待ち続けること随分と長い時間。
ついには根負けして、こっそり目を開けてみると⋯。
「そんな格好して、そろそろ首が疲れないか?」と、なじみのどんぐり眼がそこにあった。
サッカーでいう、派手に転んで主審にファウルもらったぞアピールをしたが、不発だった時のような恥ずかしさ。まあ、フェアじゃないから、相手にされないだけだけれど。
「福よ。君だけが声を掛けてくれた。優しいね。グリーンカード(※U-12以下の大会においてフェアプレー、リスペクトのある行為に対して提示されるカード)をあげたいわ」
「⋯⋯?いや、命を受けただけだけど」
「⋯⋯」
いつの間に命を?
相手(秦広王)の方が、1枚上手だったか。
「あれ?さっきの軍隊は?」
「昼餉《ひるげ》を摂りに、陣営に戻った。俺はお前の世話を任されてる」
そう言いながら、福は手元に持つ果実の皮をナイフのような物でスルスル⋯と剥いては、ぽいっと籠に入れて。皮を剥いてはまた⋯ぽいっと、繰り返している。
おそらく、ずっとこうしながら⋯私の様子を見ていたのであろう。
オレンジ色の、馴染みあるそれは⋯
「柿だ。⋯美味しそうだね」
腹が⋯ぐうう、っと鳴る。
「そうか?渋くてまだ食べられないけど」
「なら、なぜ皮を剥いてるの?」
彼は手を動かしたまま、クイッと顎を突き上げて。ある方向を⋯指した。
見ると、小屋のような陣営の軒下に、何連にも連なって吊るされているものが⋯あった。
まるで、長閑な田舎の⋯風景。