海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「⋯⋯⋯。」
けれど、待てど暮らせど号令は止まなくて。
声を掛けて来る者もおらずに。
待ち続けること随分と長い時間。
ついには根負けして、こっそり目を開けてみると⋯。
「そんな格好して、そろそろ首が疲れないか?」と、なじみのどんぐり眼がそこにあった。
サッカーでいう、派手に転んで主審にファウルもらったぞアピールをしたが、不発だった時のような恥ずかしさ。まあ、フェアじゃないから、相手にされないだけだけれど。
「福よ。君だけが声を掛けてくれた。優しいね。グリーンカード(※U-12以下の大会においてフェアプレー、リスペクトのある行為に対して提示されるカード)をあげたいわ」
「⋯⋯?いや、命を受けただけだけど」
「⋯⋯」
いつの間に命を?
相手(秦広王)の方が、1枚上手だったか。
「あれ?さっきの軍隊は?」
「昼餉《ひるげ》を摂りに、陣営に戻った。俺はお前の世話を任されてる」
そう言いながら、福は手元に持つ果実のヘタをナイフのような物でくいっともぎ取っては、そうっと籠に入れて。はまた⋯くいっと、そ〜⋯、とを繰り返している。
おそらく、ずっとこうしながら⋯私の様子を見ていたのであろう。
赤い、馴染みあるその粒は⋯
「いちごだ。⋯小さいけど―⋯美味しそうだね」
腹が⋯ぐうう、っと鳴る。
「野いちごだ。食うか?」
「いいの?⋯ありがとう」
小指程の大きさのそれを⋯2本の指で摘んで。
早速食してみる。
食べ慣れた甘〜いイチゴとは違う、酸っぱくて、野性味ある味。
「これはこれで―⋯イケる」
私は拘束された両手で【good☆】を意味するサムズアップを提示した。
福の首が―⋯横にくいんと傾けている。
そうか、サムズアップなど、知るわけもない。
なるほど―⋯
この、ぽかぽかの陽気。
木々の―⋯新緑。
命の芽吹きを感じる、この情景。
木の近くの斜面には―⋯至る所に、ひょっこりと鮮やかな黄緑色のフキノトウが生えていて。
まるで、長閑な田舎の⋯春の景色だ。