海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
ひとまず1日目―⋯その夜。

麻布に包まり、疲れた身体を休めようと目を閉じるものの⋯その瞼の裏に焼き付いた、有昧の尊厳たる夕陽の橙が―⋯それを妨げた。

風が吹くたびに、出入口に垂れ下がった(むしろ)の端が土の床を擦り、『ザッ……ザザッ……』と乾いた音を立てる。

寝付くことができず、庭でも散歩しようかと⋯くるまっていた麻布をぽいっと投げて。

「⋯⋯寒い」

そっと足を忍ばせ、出入口へと向かう。足の裏がその冷たさで⋯ひやり。

有昧の夜は、もう春であるというのに―⋯とても冷えるらしい。

「⋯⋯これは、脱走じゃあない。⋯うん、堂々と」

幾重にも重ねられた筵。年月を経て黒ずみ、土埃を吸って硬くなったそれは、『壁』にも近い威圧感を放っている。

勇んで(むしろ)をめくると、ずっしりとした重みと、やはり―⋯地を擦る独特な音とが、その確固たる役目を象徴するようだった。

そして、戸に手を掛けるが。

「⋯⋯⋯」

うんともすんとも、言わないじゃあないか。

福がここを去る時に、外からゴトリ、と鈍い音が聞こえていたが―⋯。

なるほど。

ここは、元貯蔵庫。そりゃあ、外側は(かんぬき)で、施錠するよね。

戸をドンドン、と叩いてみると―⋯。

「また(せい)(※トイレ)に行くと言って脱走する気だろ?早く寝ろよ」

と、福のあくび混じりの小言が返ってきた。

仕方なく寝床に戻って、石のかた〜い枕に、頭を乗せると。無理矢理、目を閉じたのだった。

2日目。朝起きると―⋯いつの間にやら、セルフ腕枕をしていたことに気づく。

腕が痛い上に、首を寝違えて痛めていたようだ。

福が食事を運んでくれるものの―⋯その食事は、粟《あわ》や黍|(きび)を茹でる、または蒸すなどしたシンプル過ぎる主食のみであった。

そしてこれは―⋯毎日、毎食続くのであった。

これでいいのだろうか?

そんな疑問が、フツフツと沸くのであった。

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