海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
3日目。

何もすることもなく、無駄な時間を過ごすことに⋯嫌気が差してきた。―⋯が。何もできないことが、逆に私の平静さを保っていた。

人間には、何もできない。

弱くて役にも立たない。そう思わせた方が―⋯命を守れるのか。

それとも⋯あの男が驚くような功を立て、利がある者だと思わせた方が―⋯得策であるのか。

唯一のお喋り相手の福と、互いに暇つぶしだ、と言いつつ他愛のないない世間話を繰り広げながら⋯私はずっと、それらを天秤に掛けていた。

「福。有昧の食事が流石に―⋯(きび)(あわ)だけしかないとは言わないよね。米が恋しいのだけれど」

「米⋯?そんな高価な物をお前に?ああ、そうだ。お前の、この履物と交換すればいい」

福は自身がちゃっかり履いている、私のトレシューの足裏を土床に擦って。そのグリップ具合を見せつけてくる。

「⋯⋯⋯」

米はないわけでは⋯ないのか。

「有昧后は与えはしないが―⋯何も、禁じているわけではないぞ?」

(ん⋯?閉じ込めているくせに、どういう屁理屈?)

「米は⋯諦める。ああ、そうだ!諸葛孔明が肉まんのようなものを食していたのであれば―⋯小麦はきっともっとその前から―⋯。ねえ福。小麦はないの?」

「⋯⋯あんな不味い補助食を好むのか?ボソボソして口当たりが悪い。食えたもんじゃない」

聞けば、小麦は―⋯西域から伝わって来たばかりで、ほんの少しは生産されているらしい。けれど―⋯普及していない不味いもの、っていう認識のようだ。

「食したいなら、そうすればいい。俺は食べないぞ」

(⋯⋯この状況でどうやって手に入れろ、と?)

でも―⋯勿体ないな。

粉にして⋯うどんにも、パンにも、肉まんにも。とにかく―⋯幅広く旨いものに化けるとんでもない食材なのに。

「⋯⋯そろそろ肉が食べたい。皆そのくらいは食べてるでしょう?」

「うるさいな。豚を盗むか、猪や羊を狩るかしてこいよ。あ、それすらできないのであったな」

「⋯⋯⋯」

なんとまあ挑発的な発言だろう。

冷静だった脳内が―⋯ふつふつと苛立ちが沸いてくるのであった。

(この者)は―⋯極めて有昧后に近しい男。王の意に反することは言わないのであろうから―⋯つまりは、これらの言葉の裏にはどんな思惑が隠されているのだろう。

私は―⋯ずっしりと重い、あの憎き石の枕を両手で持ち上げると。重量挙げの如く―⋯「ふんっ」と気迫入れてそれを肩まで掲げていく。

ふう、と息を整えて。

更に頭上へと運ぶ。

これぞ渾身の、クリーン&ジャークを決め込むと⋯、福が怯えた瞳で、一歩、また一歩と後退りしていった。

「お前―⋯俺の頭を割って殺そうなどと考えてるのか?そ、それこそお前の命取りになるぞ?!」

「⋯⋯その石頭を割る?福、面白いこと言うね」

じり、じりと福に迫る。

「やめろ―⋯これ以上近づくな」

「⋯⋯⋯」

私は―⋯腕を後方へと反らせて。

その反動で―⋯石を思いっきり叩きつける!!

すると―⋯どうだ?

その大きな塊は、1つ鈍い音を立てて⋯

福の足元の土床へと、ゴトリ、と落ちたのだった。

彼は、へなへなとその場に―⋯座り込む。

狙いは、このカワイイ石頭?

いいえ、流石にそんな馬鹿な真似はしない。
重い扉の―⋯石でできた軸受けへと目掛けて、投げたのだ。

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