海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「不要なものだと言うなら、それを貰おう」

彼はその涙を、親指で拭い消すと⋯
彼女の胸へと手をあてる。

目を瞑り、己の集中をそこへと注ぐと⋯壮絶な哀しみの感情を、悲壮の塊を⋯、抜きとっていく。

とぐろのように渦巻く浅葱色(あさぎいろ)のそれを、王は自身の心の臓へと強引に押し込み⋯まるごと、ぐっと飲み込んだ。

それは、不必要で、面倒で、恐ろしくて⋯。
けれど、奪われ失って、渇望していたものでもあった。

例え無くても困らず、不便もない。
でも、後ろめたく、慚愧に耐えない。

二律背反な感情がぶつかり合って⋯心臓に抉るような痛みが突き刺さる。

けれど⋯まるで何事でもないかのようにぐっとただ堪えて。
哀の感情の渦が暴れるその度に⋯、彼が纏う空気がピリ、と張り詰めるのだった。
そして⋯その冷たい空気と相反するかのごとく、柔らかい花の香りだけが⋯ふわりと漂っていた。

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