海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
彼女の身体は一気に固まって⋯瞬き1つ、できなくなる。
「遭ったであろう?この世の者とは思えぬ⋯妖怪に」
「⋯⋯⋯⋯」
「例えば⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
ここまで言って。浮游は呪縛を解く。
息が止まった海棠が⋯苦痛に顔を歪め、さも苦しそうに藻掻いていたからだ。
これ以上怖い思いをさせては、よい方向に⋯向かわないというのに。浮游にとっては⋯人間への加減の仕方など、無論知る由もない。
ゲホ、ゲホ、と咳をしながら⋯それでも臆することなく、彼女は言葉を続けた。
「全く情け容赦ない⋯。わかったわかった。こんどこそちゃんと聞く」
今度はさっきとは逆に⋯海棠が、浮游の目をじっと見つめる。
「⋯最後の質問。なら⋯、貴方は?」
「⋯⋯⋯」
「痛い目にも遭わされるし、何よりも冷たいし、でも⋯⋯未だ命も奪わず、助けてくれて、世話をしてくれてる。私に聞いたよね、何者だ、と。同じ問いを⋯ずっとしたかった」
その眼差しが⋯あまりにも真っ直ぐで。
浮游の瞳が⋯一瞬、ピクリと動いた。
「初めて来た世界で、1番先に知りたいのは⋯貴方自身のこと。有昧王、貴方は⋯何者なの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「自分のことだもの、1番答え易い質問だと思わない?」
ここで海棠はふふっと笑って。
「あーあ。夢でもわからないままか〜」とあからさまにガッカリする。
「1番答え易い質問だと?お前は名前すら答えられないのに?」
「⋯⋯そう言うと思った。貴方は⋯天邪鬼だし頭の回転も早いから、誤魔化すことに関しては右に出る者はいない。もうだいぶ⋯理解したつもり。いい?これは、私の夢の中なの。Understand?つまりのところ、礼儀に従って貰わないと」
「礼儀だと?」
「名を聞きたいのなら、まずは自分から名乗るべき。日本人の夢なんだから⋯道理に従って欲しい。そうでなければ」
「⋯⋯⋯」
「私はこれを、夢であることを疑う」
そう言って、海棠は⋯見えなくなったはずの、あの香炉の方へと⋯視線を移す。
浮游もまた、同じ場所を見つめて⋯。それからまた、海棠の方を見た。
「遭ったであろう?この世の者とは思えぬ⋯妖怪に」
「⋯⋯⋯⋯」
「例えば⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
ここまで言って。浮游は呪縛を解く。
息が止まった海棠が⋯苦痛に顔を歪め、さも苦しそうに藻掻いていたからだ。
これ以上怖い思いをさせては、よい方向に⋯向かわないというのに。浮游にとっては⋯人間への加減の仕方など、無論知る由もない。
ゲホ、ゲホ、と咳をしながら⋯それでも臆することなく、彼女は言葉を続けた。
「全く情け容赦ない⋯。わかったわかった。こんどこそちゃんと聞く」
今度はさっきとは逆に⋯海棠が、浮游の目をじっと見つめる。
「⋯最後の質問。なら⋯、貴方は?」
「⋯⋯⋯」
「痛い目にも遭わされるし、何よりも冷たいし、でも⋯⋯未だ命も奪わず、助けてくれて、世話をしてくれてる。私に聞いたよね、何者だ、と。同じ問いを⋯ずっとしたかった」
その眼差しが⋯あまりにも真っ直ぐで。
浮游の瞳が⋯一瞬、ピクリと動いた。
「初めて来た世界で、1番先に知りたいのは⋯貴方自身のこと。有昧王、貴方は⋯何者なの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「自分のことだもの、1番答え易い質問だと思わない?」
ここで海棠はふふっと笑って。
「あーあ。夢でもわからないままか〜」とあからさまにガッカリする。
「1番答え易い質問だと?お前は名前すら答えられないのに?」
「⋯⋯そう言うと思った。貴方は⋯天邪鬼だし頭の回転も早いから、誤魔化すことに関しては右に出る者はいない。もうだいぶ⋯理解したつもり。いい?これは、私の夢の中なの。Understand?つまりのところ、礼儀に従って貰わないと」
「礼儀だと?」
「名を聞きたいのなら、まずは自分から名乗るべき。日本人の夢なんだから⋯道理に従って欲しい。そうでなければ」
「⋯⋯⋯」
「私はこれを、夢であることを疑う」
そう言って、海棠は⋯見えなくなったはずの、あの香炉の方へと⋯視線を移す。
浮游もまた、同じ場所を見つめて⋯。それからまた、海棠の方を見た。