海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
(福はいないのかな。昨日のこと⋯色々とバレているのでは?)
ハラハラとしながら、ちびっこ妖怪の登場を待つ。⋯が、おかしなことに戸を全開にしても⋯彼は現れない。

「⋯⋯?どこに行った?」

外へ出て、庭を少し散策すると。
納屋からずっとずっと離れた遠い場所に⋯、何やら小さな人影が見えてきた。

こちらに気づいたのか、一直線にこちらへと向かって来る。


「福、ふーく!」
ようやくその者が誰であるのか見えてきたその時に、私は繋がれた両腕を上げて、おいで、おいでと⋯懸命に手招きをした。

「海棠〜っ。オマエ、どこに行ってたんだ?」

「⋯どこって⋯」

どぎまぎして、目を合わせることができない。

けれど、福がとてとてと駆け寄って来る姿が愛らしくて、こっそり薄目をあけて⋯こっちに来るのを待った。

「今朝方早くに確認した時には、確かにいたのに。どこをほっつき歩いてたんだよ」
両手に抱えた籠を下ろして、福はため息をつく。


確かに夜はいなかったけれど⋯朝ならば、うん。今の今まで、ずっとただ寝てただけだ。

「ここにいたけど⋯」
良心が痛むけれど、これは嘘じゃあない。

「嘘つくならもっと上手くつけよ、ホラ」

福は籠から、白いものをぽーんと投げて。私はそれを無事にキャッチする。

「おお⋯!ついに」

きっと、作りたてを運んでくれただろうに⋯もう、すっかり冷めてしまっている。

「飯も食ってないし、流石に寝過ぎもいいとこだから、また逃走したかと思って様子見に行ったんだ。あちこち探してたんだぞ。全く⋯早く食べさせたかったのに」

「⋯⋯⋯」
福が冗談言っているようには見えないし、一体どういうことだ?と思うのではあるが、目の前の肉まん(肉なし)もどきに⋯、腹ペコな私が耐えられるはずもなく。

敷かれた葉を剥がしぱくりと頬ばって。
まずは⋯腹ごしらえをする。

つまりのところ、人間、「腹が減っては戦はできぬby北条氏綱(ほうじょううじつな)」て所だ。

冷めているけれど、ほんのりと中は少しだけ温かい。
もっちりと弾力あるその生地を⋯堪能する。

それから、残った生地を余すことなく⋯観察する。
粗挽きの粉では成し得なかった⋯白の膨らみ。沢山ある、気泡。恋しかった、この味―⋯。

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