一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「曽木の滝は、滝幅210メートル、高さ12メートルの壮大なスケールを誇り、″ 東洋のナイアガラ ″ とも呼ばれております」
 
 曽木公園に到着してからは、お客様を蛯原さんに委ねる。
 
 その間に店のお座敷に行き、座席、配膳の数をチェック。足の悪いお客様には椅子も配備。
 よし。抜かりなし。
 
 ただ、心配していた通り、敷地内の桜は殆ど散ってしまい、見事なピンク色の絨毯を作っていた。
 上手の方の木に、僅かに残ってるだけ。
 
 時折、強く吹く春の風に、淡い桃色の花弁が舞い上がる。
 それを見ると、ちょっぴり切ない気持ちになってしまった。

  ″あの人 ″と出会ったのも、数年前の【桜紀行】と名打った春のツアーだったから。

 
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