一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 すると、木下さんに一言謝り、後ろに並び直してくれた。
 中国人は、メンツを守る性格の方が多いだけに、他と違うことを言い示すと、すんなり受け入れて貰えることが多いのだ。
 
 やれやれ。
 今日はいつもに増して神経を使う。
 
 南條さんや赤石さん、そして三宅くんの席は何事もなく食べているだろうか?
 離れた所から見守っていると、
 
「おい」
 
 背後から、低く、怒った声が聞こえてきた。

「はい?」
 
 振り返ると、ムスッとした岡田が立っていた。
 
「……どうしたんですか? こちらで夕食を?」
 
 くつろいでいたんだろう、今日もスウェットにティシャツという部屋着姿だ。
 
 「どうした? じゃない、お前がその年になっても独身な理由が分かったよ」
 
「は?」
 
 何なのよ、いきなり。失礼な男……と思ったら、
 
「あっ」
 
 岡田が手にしていたシャツを見て、乾燥機に入れっぱなしだった事を思い出した。
 
「どのくらいかけてたんだ? しわっしわっじゃないか」
 
 
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