一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 主婦グループのお客様が血相を変えて、私を呼んだ。
 
「どうされました?」
 
 ただならぬ様子にその席に近付いていくと、赤石さんが胸を押さえてうずくまっていた。
 
「……赤石さん?」
 
 顔面蒼白になり、右手には御守り袋が握りしめられている。
 
「どこが苦しいんですか?」
 
 持病があるとは聞いていない。
 
 けれど、この症状には覚えがあった。
 
 数年前に亡くなった父が、狭心症で良く発作を起こしていたからだ。
 
「この袋に薬が入ってるんですね? お飲みになりましたか?」
 
 耳元で尋ねると、赤石さんは首を縦に振った。
 
 薬を飲んでも効かないとなると、
 
「心筋梗塞起こしたのかもしれない、病院行きだ」
 
 私と同じ考えらしい岡田が、スマホで救急車を呼んだ。
 
 待つ間にも、赤石さんの症状はどんどん悪くなっていく。
 
 呼吸も荒く、背中の痛みを訴えていた。
 
「心臓を圧迫しないように横に寝かせてください」
 
 ホテルの方にお願いして、枕の代用を貸してもらう。
 
「もう少しの辛抱ですからね」
 
 励ましながらも、年齢も性別も違うのに、赤石さんが父に見えてきて、とても怖くなった。
 
 
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