一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 ″よくやったよ ″
 
 いつの間にか岡田の声の調子が、柔らかいものに変わっている。
 
 耳から、ホッとするような温もりさえ伝わってきた。
 
『後は、平等に参加者全員の事を考えてくれ』
 
「平等に……」
 
  岡田の言葉に、ようやく我を取り戻した。

  一人しかいない添乗員が、緊急で宿泊施設を離れた。
 
 お客さまの中には、旅行が中断されるかもしれないと不安に感じてる方もいらっしゃるはずだ。
 
 それに、こんな時にもホテルでトラブルが起きてるかもしれない。
 
「わかりました、今から戻ります」

 気の効いた蛯原さんが、搬送時に赤石さんの貴重品と、部屋の荷物も持たせてくれていたお陰で、入院の手続きはそう時間はかからなかった。
 
 が、病院を出る頃には日付は変わっていた。
 
「……寒っ」
 
 昼間はあんなに暖かく、むしろ暑いくらいなのに、夜の風は冷たくて凍えそうだ。
 
 タクシーを呼ぼうとスマホで検索していると、まだ電話もしていないのに、それが目の前に停車した。
 
 後方のドアが開いて、奥の方から低い声が聞こえてきた。
 
「おつかれさん」
 
 岡田だ。
 
 ビックリした。
 
 
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