一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 岡田は、水をゴクゴクと飲むと少し苛ついたように続けた。
 

 「桜祭りの最中かもしれないが、ここで昼食とってから屋台しかない公園に寄ってもしょうもない気がするけどな」
 
 「……確かに」
 
 桜は散っても、お祭り気分だけでも味わえたら、と思っていたけれど。
 
 「昼食の間に代案を考えておけば?」
 
 それを蛯原さんに相談しようと思っていたのに、先に無愛想な岡田に指摘されて、ちょっとムッときた。
 
 「言われなくても考えます」

 「あ、そ」
 
 と、冷たく返して、岡田がスラリとした足で颯爽とバスに乗り込む。
 座ってスマホを弄り出していた。
 その横顔も凛々しく、目も鼻筋も、唇も形が完璧だ。
 つい、見とれてしまう。
 
 女性にだけじゃなく、男性にもモテるかもしれない。
 
 その場合。
 きっと、……受け、ではないよね。
 
 「フフ」
 
 腐った妄想を一瞬だけ楽しんで、食事処の店に移動する。
 ……それにしても。
 
 あの人も、ちゃんと考えてるのね、旅の事。
 ただ、決まった通りに運転だけを遂行してるのかと思ってた。


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