一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「これ、良かったらどうぞ」
 
 昼食を終えた客を出迎える桑崎に、リバー似の青年が、美味で有名などら焼を差し入れしていた。

 余計なお世話だけど。
 あんた、その(つら)で、随分と女の趣味が悪いんじゃないか?
 それとも単なるイイコちゃんか?
 隣にいた蛯原の、嫉妬心丸出しの顔は面白かった。
 
「きっとスタッフ皆さんで、どうぞって事だと思います」
 
 その気遣い、余計にアラフォー女の心を逆撫でるぞ。
 何せ、女というのはプライドが高く、それを傷つけられた時の憎悪ってのはタチが悪いからな。
 
 俺は、バスに戻る桑崎に、何気に注意換気をした。
 
「客との色恋沙汰はトラブルの元だぞ」
 
 ハッとした顔を俺に向けて、桑崎は、元々そうだが、暗い目をして小さく返した。
 
「……わかってます」
 
 本当にわかってるんだろうか?
 今日の客の中には、長年、女に飢えた輩がいるってことを。


 
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