一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 そして、想定内の小さなトラブルは起きた。
 
 【麹の里】で焼酎を試飲した男性客が、出発前に桑崎へ執拗に絡み始めたのだ。
 
「俺は添乗員さんの隣でいい!」
 
 この南条という客は、格安パッケージの常連で、酒と女グセが悪いと評判だった。
 並み以上の添乗員やガイドなら、誰でも誘うことは知っていたが、……おい、おっさん。
 
 シラフで見てみ。
 桑崎は、醤油をかけていない冷奴みたいな女だぞ?
 
「時間をおすと、宴会の時間がズレてしまいますので、どうぞお戻りください」
 
 桑崎も桑崎。
 頭ガッチガッチなんだろうな。
 対応が真面目過ぎるんだよ。
 
 そうこうしてるうちに、蛯原まで巻き込んで、客によるセクハラミニ劇場が始まった。

「ババァはすっこんでろ!」
 
 美人な類いに入る蛯原の自尊心が、ざっくりと傷つけられている。
 同じ女として、それに腹を立てた桑崎が珍しく大きな声を出した。

「じゃあ、南条さんはそのままで結構です! 私、立ってますので!」
 
 
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