一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 そう、単なる酔っぱらいは、な。
 
 がしかし、本当に凶悪な事をするのは大概、善人の仮面を被ってるもんなんだ。
 
 例えば。
 あの好青年のリバーや、高齢の父親に寄り添う中年の息子とか。


 ホテル到着後。
 俺は、桑崎と手分けして乗客に荷物を渡してしまうとバスを車庫に入れ、ロビーへと移動した。
 
「お疲れ様でしたー、鍵をフロントで受け取ってから各自部屋へ移動されてください。宴会場も大浴場も二階です」

 桑崎の指示通りに、客はフロントから鍵を受け取って各々部屋に移動していく。
 全員がそうしたところで、俺や蛯原、桑崎も自身の部屋の鍵を受け取った。

「じゃあ、後で打ち合わせに行きますね」
 
 恒例のドライバーの部屋での打ち合わせの前に、桑崎と蛯原は一度荷物を置くため、エレベーターで昇る。
 
「ああ。俺は売店に寄る」
 
 すると、例の、親子で来ていた客の息子の方が、待ち構えていたように咄嗟にそのエレベーターに乗り込んだ。
 
「木下さん?、お父様は先に上がられたんですか?」
 
  蛯原と桑崎の、ちょっとビックリした声が聞こえて、そのまま扉は閉じた。
 二人の部屋が客に知られなければいいのだが。
 
「まぁ、いいか」
 
 小娘じゃあるまいし、心配無用かな。
 
 俺は、翌日の眠気覚ましの清涼菓子 (ミンティア)を買うために下の売店に寄った。




 
 
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