一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 あの木下って客、図体でかかったよな。 まともに相手したって敵わない。
 
「……はぁ」
 
 まさかドライバーになってからも、こんなトラブルに巻き込まれようとは……。特に海外旅行では、女の添乗員が現地の客やガイドに部屋へ押し入られる事件は珍しくない。
 
 だけど、ここは日本、ベテラン添乗員の桑崎だぞ?
 
 俺は、二度目の溜め息をついて、桑崎の部屋のドアをノックした。
 
「桑崎さん、明日の事で話があります。入りますよ」
 
 開いてるかもしれないのに、いきなり入らなかったのは、やはり、″真っ最中 ″は避けたかったからだ。
 野郎はいいんだ、野郎は。
 でも、桑崎は一応女だし、仕事仲間だから気を遣った。
 
「開いてます!」
 
 桑崎の半泣きのような声が返ってきて、俺は直ぐにドアを開けた。



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