一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 ツアー二日目。
 鹿児島は 清々しい朝だった。
 
 涼しいうちに霧島神社の参拝を終えたのはいいのだが、この日もトラブルが早々に起きた。
 
「このまま進むと、あれを折ってしまう」
 
 公園に向かう途中、一方通行の道にて、桜の木の枝に前方を塞がれてしまったのだ。
 
 剪定をしてない管理者が悪いし、通行時に折ったにしても、その責任は車両にはない。
 
 そう考えてしまうかもしれないが、実際はじゃない。
 
 他人の所有物である木の枝を折る事は、器物損壊罪(刑法261条)になり、 3年以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられる。
 
 何より、桜の木は菌に弱い。
 枝を折ると、そこから病気になったり、再び生えてくるまでに長い時間がかかったりする。
 
「こんな狭い急斜面をバックするんですか?」
 
 桑崎が外を見て不安気な顔をし、客からも小さな悲鳴に似た声が聞こえた。
 
 が、下がるしかない。
 蛯原が後方にいた車を、桑崎がバスを誘導した。

 
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