一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 バックモニターがついていても、左右の死角は誘導する人間に頼るしかない。
 過去に、蛯原が笛を使って誘導するのを見たことはあるが、桑崎はどうだろう?
 何となく心配だったが………、

「オーライオーライ」
 
 桑崎はマイクを使って、ミラーに映る自身の位置と周囲を確認しながら、手振りも交えて正確に誘導した。
 
 変な汗をかきながら、何とか、傾斜の曲がり道を下り、入口にまで戻る事が出来た。
 
 広い沿道でUターン。
 
 誘導を終え、バスに戻る桑崎と目が合った。
 安堵の為なのか、心なしか涙目だ。
 
「おつかれ………」
 
 思わず俺がそう言うと、桑崎は震えるように微笑んだ。
 
 それを見た途端、ある動物番組にて、沼に溺れた小さな草食動物が、無事に生還した時の感動を思い出した。
 
 少しだけハグをしたくなったのは、オスとしての本能だろう。(たぶん)






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