一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
吊り橋を渡ることなく、一人バスに戻って県内の交通情報をネットで見ていたら、

「運転士さん!」

赤石婆さんが、血相を変えてバスに乗り込んできた。

「どうしました?」

何かトラブルなら桑原に言ってくれ。
そして、現地の事なら蛯原に聞いてくれ。

「吊り橋のところで韓国人と揉めて、添乗員さんがケガしたみたいだよ!」

「は?」

俺は、見ていたスマホをポケットに仕舞ってバスから降りた。

「ガイドさんはそばにいないんですか?」
「あっちはあっちで別の揉め事に対応してるよ」

他でも揉めてるのか。

「……ケガってどんな?」

「私は遠目でしか見えてないけど、殴られて顔、血だらけって聞いたよ」

マジか。
俺は、元看護師だという赤石婆さんに、そこの売店から氷を買って待機してくれるようにお願いした。
全く、世話が焼ける。

吊り橋を渡ろうとしたら、一人の男が逃げるように向かってきた。

アイツが桑崎を殴ったのか。

俺は、すぐ近くにいた韓国側の添乗員に、男の身元を教えてほしいと話した。

そのピンクスーツの若い女は、

「jangdong-geon dalm-ass neyo! 」

俺を、チャン・ドンゴンに似てると言っていたが、韓流俳優が全く分からず、取り敢えず名刺を貰っておいた。

吊り橋の真ん中に、倒れた桑崎と、それを心配そうに見る三宅と蛯原がいた。


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