一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「う」
 
 嘘みたいに軽かった。

 見た目以上の軽さに、自分が抱き上げてるのが女だということを忘れそうだった。
 これは。
 空気の抜けたビニール人形か?
 
 それとも、鹿児島に伝わる妖怪の一種、一反木綿(いったんもめん)か?

「いや、走らないで」
「予定が押すだろ」
 
 急ぎ足で吊り橋を抜ける俺に、ぎゅっとしがみつく桑崎。

「そんなに力強くしがみつくなよ。落としたりしない」
 
「あ、ごめんなさい」
 
 鼻血を出しながらも、恥ずかしそうにする。
 
「……」
 
 やっぱり、背中が汚れても、おんぶにしとけばよかったな。
 
 そうしたら、こんなおかしな気持ちにはならなかった。
 
 こうやって、直に女に触れたのは何年ぶりだろう?



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