一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 交通情報を見ていたお陰で、混んでいた道を避け、予定よりも少しだけ早くホテルに着いた。
 
 昨日の宿とは違い、硫黄の香りがしなかった。
 
「此方のホテルの温泉は、徒歩五分のところにございます。タオルは有料となっておりますので、ぜひ部屋に備え付けの物をお持ちになってください」
 
 しかも、部屋と温泉が別館だと聞いて、ちょっと面倒くさいなと思った。
 客も同じようで、
 
「こんな広い所迷子になっちゃう」「湯冷めしそう」
 
  と、ぼやいていた。
  それより、俺が気になったのが……。

 玄関入口にあった、ウェルカムボードだ。
 
 良く団体客の名前が書いてあるが、 俺達、南部観光バスの隣に、【ATB南京支店ご一行様】とあった。
 前職の会社……。
 
 なるべく知り合いには会いたくないものだ。



 
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