一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「あのクレーム婆さん、どこまでも迷惑かけやがるな!」
 
 同じテーブルだった南条という客が、おかしくもないのに笑ってそう言うと、

「迷惑ってなによ!」「あなたよりマシでしょうよ!」
 
 と、主婦グループにやり込められていた。
 
「添乗員さん、大変だなぁ………飯も食ってないだろうに」
 
 木下の親父がボソッというと、息子の方も大きく頷いていた。
 
「どこの病院だろう? 僕、迎えに行ってもいいけど」
 
 三宅が席を立つと、そばにいた蛯原が、「私と一緒にいきます?」と、ぬけぬけと言っていた。

「えっ」
 
「あはは、冗談ですよー」とも言っていたが、目が絶対に本気だった。
 
「蛯原、悪いけど、お開きまでここに居てくれ。俺は電話してくる」
 
 ガイドの域を越えてしまうが仕方ない………。
 
「了解、てか、岡田さんはご飯は?」
 
「今は食わない」
 
「そう」
 
 中国人とトラブルを起こさない限り、まぁ何とか蛯原で場を仕切れるだろう。
 
 宴の間を出る俺の後を、何故か三宅が付いてきた。

「何?」
 
 振り向くと、三宅が堅い顔をして立っていた。
 
「添乗員さんと、………桑崎さんと、もしかして付き合ってるんですか?」
 
「は?」
 
 



 


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