一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 部屋で、睡魔と戦いながら桑崎からの連絡を待つ。
 
 ミンティアでは追い付かなくて、昼間に赤石婆さんから貰った、唐辛子のガムを噛むことになった。
 これが想像以上の辛さで口の中で燃えるようだった。
 
 あの婆さん、いつ、どんなタイミングで食ってやがるんだ? 絶対にイタズラ用だろ?
 
 一時間後。
 ようやく桑崎から電話がかかってきた。
 赤石婆さんに同情したのか、病院に残ると言い出した。
 
「だって、一人なんですよ? ………こんな旅先の病院に。目覚めたら、誰もいないんですよ? この先どうなるのかも分からないのに」
 
 心配した通りだ。
 桑崎の隙は、この情の脆さのせい。
 それを叱責したあと、俺は、タクシーを呼んで迎えに行った。
 

「………迎えに来てくれたの?」
 
「本当はバスで行こうかと思ったけど、駐車場から出せなかった」
 
 警戒か知らないが、桑崎は俺より一人分離れてタクシーに乗り込んだ。
 
 が、よほど疲れていたのか、直ぐにうとうとし始めて、タクシーが道を曲がったのと同時に俺の肩に寄りかかってきた。

 
 
< 176 / 316 >

この作品をシェア

pagetop