一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 「添乗員さんたちは、試飲したの?」
 
 出発前のバスの中、要注意人物の南条さんが話しかけてきた。
 
 「いいえ、私達は仕事中なので」
 
 「あ、そう? 残念だね! 美味かったよー、芋焼酎も梅酒もマッコリも!」
 
 「それは良かったです。お土産に買われましたか?」
 
 どれだけ試飲したんだろう? 息がかなり酒臭い。
 
 「買った買った! 自宅用は宅配便で送ったし、今夜、ホテルで呑むのも買ったよ、ほら!」
 
 南条さんは、焼酎の瓶を見せてニンマリと笑った。
 
 「それは今夜は楽しみですね、温泉のあと楽しんでくださいね」
 
 「添乗員さんも一緒にどお?」
 
 「私は、皆様がお休みになるまでが仕事ですので」
 
 「そーんなわけないだろ? 酒に付き合うのも仕事じゃないか」
 
 ……話が終わらない、が、そろそろ出発の時間だ。
 
 ドライバーの岡田がミラー越しに私を睨んでいる。
 
  「そろそろ座席にお戻りください、バスが出ますので」
 
 着席を促すも、
 
 「俺は添乗員さんの隣でいい!」
 
 南条さんは言うことをきかずに、私の席の隣に腰をおろす始末。
 
 旅の道中に飲酒は自由なのだけど、こう絡まれると仕 事にならない。
 
 「スミマセン、私は席を立ったり頻繁に動きますので、隣は空いてないとダメなんです」
 
 やんわりと戻るように説得するも、南条さんは駄々をこねた。
 
 「ホテルに着く間くらい、女の隣がいいんだよ!」

 



< 20 / 316 >

この作品をシェア

pagetop