一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「あ」
 
 そうだ。
 
「さっきはありがとう」
 
 お礼を言ってなかった。
 
「何が?」
 
「間違い乗車の酔っぱらいの人にギャフンと言わせてくれて」
 
「ギャフンと言ったかは定かじゃないけどな」
 
 再び豪快に笑い声を上げた岡田が、ポケットから何かを取り出した。
 
「これ、やるよ」
「なんですか?」
「赤石婆さんからの心遣い、俺一人じゃ消化しきれない」
 
 黒と赤の紙に包まれたガムだ。
 
「ありがとう」
「じゃあな、カモメに拉致されるなよ。捕獲された宇宙人と間違えられてNASAに報告されるぞ」
 
「はいっ?!」
 
 岡田は、クックッと可笑しくもないのに一人で肩を震わせて船内に入っていった。
 
「優しい人なのかそうじゃないのか………」
 
 私は、何気にそのガムを口に入れた。

「辛っ!!」
 
 思わずガムを吐き出しそうになる。
 が、赤石さんから貰ったものだと聞いたらそれも出来ずに涙を流しながら、味がしなくなるまでしきりに噛むことに。
 
 良く、こんなピリピリするもの………アイツなら平気そうだけど。
 
 あ、れ。
 
 この辛味。確か、昨夜………。
 
 

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