一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 タクシーの中で目覚めたあと、口がやけにピリピリとしたのを思い出した。
 
 これって、どういうこと?
 
 岡田に確認したくて、追いかけるように入口に向かおうとしたら、
 

「紫都?」
 
 懐かしい声に呼び止められた。
 
 振り向くまで、わざと時間を空けた。
 
 声の主を見るのが怖かったからだ。
 
「やっぱり紫都だ。相変わらずスレンダーだな」
 
 西日が直射するそこで、潮風にサラサラの黒髪と白シャツの裾をなびかせるその人は、私を眩しそうに見た。
 

 四年前に別れた元彼だった。

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