一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 蛯原さんの顔がますます赤くなった。この人、女の敵だ。
 
 「岡田さん! 言い過ぎですよ!」
 
 つい、強い口調で牽制する。
 
 接客業だからお客様に何を言われても、何をされても良いと言うことはない。
 私達にだって人権はある。
 
 「あんたも!」
 
 岡田が、今度は私に氷のような目を向けた。
 
 「女だからっていつも男に助けて貰えると思うな。腕や腰を掴まれたぐらいで固まってんじゃないよ、お前は処女か? これだから女はダメなんだよ」
 
 「!」
 
 ヒドイ。
 テーブルのお茶菓子を投げつけてやろうかと思ったけど、
 
 「最悪! あんたこそセクハラしてんじゃないわよ!何、その男尊女卑!」
 
 先に蛯原さんがそれをやった。
 投げた西郷どんの煎餅袋が、ピッと、岡田の口元に当たる。
 
 「こんな男と二度と一緒に仕事したくないわ。桑崎さん、行こう」
 
 そして、私の手を取って岡田の部屋を出た。興奮からか、蛯原さんの手はとても熱かった。
 
 「良い年して、中学生のツレションかよ」
 
 私達の背に向けた高笑いが、更に感情を逆撫でる。
 
 本当、最悪。
 
 顔だけの男だ。


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