一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「はい……?」
 
 覗き穴もないので、耳を澄まして誰かを確認する。
 
「添乗員さん! おやすみの所すみません、木下です」
 
 お客様。男性の声。
 
 一瞬、南條さんかと思って構えてしまった。
 
  ″ 木下 ″″ 木下 ″……。
 
 ツアー客の顔を思い出してみる。
 
「あ、親子で参加されている木下さんですか?」
 
 そういえば、宴会のあと、足のふらつくお父様を部屋までお送りした。
 
「そうです、父がちょっと……」
 
 えっ!?
 急病だと思い込んだ私は、咄嗟に部屋の鍵を開けた。

 80歳近くのご高齢の木下さん。
 見学も、長い階段や坂道は登らずに休まれていた。
 

「お父様、どうされましたか…?」
 
 ドアを開けた先には、その木下さんの息子さん、およそ50才が、赤い顔をして立っていた。一人だ。
 
  何故か、うっすらと笑みを浮かべてーー
 
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