一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「添乗員さん、浴衣姿、特に胸元が色っぽいねぇ」
 
 言い方がいやらしく、浴衣を着た事をほどなく後悔。
 吐く息も、強いアルコールと、にんにく臭が凄い。 つい、鼻を押さえたくなったその時、
 
「酔った父親のイビキがうるさくって寝れないんだ、添乗員さんの部屋、泊めてよ」
 
 木下さんが、半分だけ開けていたドアを強引に押して、中に踏み込んできた。
 
「木下さん、ダメです!」
 
 騙された!
 勝手に部屋に上がり込む木下さんを制しようとしても、あっさりと押しやられる。
 
「ダメって、睡眠不足で体調不良になったら、添乗員さは、どうしてくれるんだ? 優しく介護してくれるの? 」
 
 そんなことするわけがない。
 
「私こそ眠れなくなります!」
 
「なに? ドキドキしてか? へっ!可愛いな、年のわりに」
 
  ムッとするような事を言って、木下さんは敷いてある布団の上に勝手に寝転がる。
 
 私にはちょうど良いシングルの布団が、木下さんの下になると、長座布団みたいに見える。
 
「はぁ、ここでなら安眠できそうだ」
 
「木下さん! 起きてください! 困ります!」
 
  部屋が一気に臭くなって目眩がしそうだった。

 


< 40 / 316 >

この作品をシェア

pagetop