一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 このツアーに参加した理由は、風景写真を撮る為だけじゃなかったから。
 
 英子の残像に苦しむ俺は、新しい出会いを求めていた。
 
 ただの恋愛相手ではなく、俺のような若い男を援助してくれそうな熟女を。

 なので、始めに目をつけたのはバスガイドの蛯原さんだった。

 「先ほど、添乗員さんからご紹介にあがりました、ガイドの蛯原優子と申します。もう少し若い頃はエビちゃんと呼ばれておりました。あ、けしてあのモデルの蛯原さんに似てるからではありませんよ」
 
 喉をかなり痛めた感じの声。
 酒ヤケ? 煙草? ガイド病?
 よく言えばハスキーボイス。
 
 年齢は、恐らく英子とそう変わらないアラフォーといったところか。
 何となく直感で、 この人は独身ではないかな、と察した。
 
 中年独身女性から滲み出るオーラは、芸能人も一般人も同じだったから。
 
 顔は、まぁまぁ、美人かな。
 明るい茶髪のセミロングが、一見、若い印象を与えるものの……。
 ストレスのせい? か、厚化粧のせいなのか、肌が荒れていて、近くで見るには耐えられないような気がした。
 
 そのうえ、
 
 「私、海外旅行とジャニーズのコンサートに行くのが趣味なんですよ! 遠征大好きです!」
 
 自己紹介から分かるように、蛯原さんは自分の為にお金を使い、他人に尽くしたり貯めこむタイプではないようだった。
 
 俺は、地味な桑崎さんに標的を定めた。

 

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