一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 ついでと言っては何だが。
 乗務員だけでなく、他にツアー参加の女性客の顔ぶれもチェックした。
 
 アラフィフの主婦のグループがいたが、まず既婚者に興味が湧かなくて、全部除外。
 
 後は、母子で参加してる体格の良い二人組と、友人同士で春休みに参加してると思われる若い女子、

 そして、
 
「この座席って三日間同じなんですか?」
 
 70歳位の、顔に険のある赤石という高齢者がいた。
 
 バスの座席にクレームをつけている。
 
 先立たれたのか、バツイチなのか、それともずっと未婚だったのか、この人からも淋しい独り身のオーラが出まくっていた。
 
「他のお客様と御相談した上で変更致しますので」
 
 桑崎さんが赤石さんに応対しているが。
 
「私、前もこのコースのツアーに参加したことがあるんだけど、左側の方が綺麗な桜の木に近くなるのよね! 写真を撮りたいから替わって貰えない?」
 
 この老女、なかなかのワガママっぷりだ。

「どなたか席をかわってくださる方いませんか?」
 
 桑崎さんの呼び掛けにも、快く応える客はいない。
 
「写真撮りたいだけの為に変えてほしいなんて、ワガママなんじゃないですか?」
 
 そう発言した主婦のグループと、皆、同じ考えだからだ。
 
 桑崎さんがとても困った顔をしていた。
 
 
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