一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
「いい感じになんてなってない!」
 
 思わず甲高い声が出る。
 
 岡田は、″うるせぇな ″って顔をして、木下さんに詰め寄っていた。
 
「添乗員の部屋に息子が押し入ったなんて聞いたら、親父さん、どう思いますかね」

「……は」
 
 高齢のお父様の事を引き合いに出されて、木下さんの勢いは、ますます失われていく。
 
 岡田の声も、更に温度を下げる。
 
「しかも、悪さした息子のせいで、残りの二日間は刺されるような空気の中で旅をしなければならない。そんな親父さんの気持ちを察したら気の毒でしかないよ」
 
 冷たい視線に晒されても、帰るにも帰られない。想像しただけで泣きそうになった。
 
「……いや、それは……」
 
 すっかり酔いがさめた様子の木下さんは、それからは何度も私に謝り、
 
「飲み過ぎた、もう二度としないから、親父には言わないでください」
 
 うっすらと涙を浮かべて、土下座をした。


 
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