一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
『寝坊すんなよ 』

 そう言われたのに、一回目のアラームでは起きられなくて、危うく寝過ごす所だった。
 
 やっぱり、昨日は疲れていたんだ。
 
 木下さんに襲われそうになった事を思い出し、何故か入念な洗顔をする。
 軽くメイクをして、お客様より早めにレストランに向かった。
 
 そこには、蛯原さんと岡田もいた。

「おはようございます」
 
 二人は、同じテーブルの斜め向かい合わせに座り、黙々とバイキング料理を食べていた。
 
「おはよう、桑崎さん、泥パックしたでしょ?」
 
 蛯原さんが、隣に座った私の顔を覗き込む。
 
「わかります? 全身やりました」
 
「わかるわかる! 色白になってるもん! 私もやったのになぁ」
 
 言いながら、岡田の方をチラリと見た。
 
 その視線に気がついた岡田は、コーヒーカップを置いて口元を歪めて笑った。
 
「そんなに厚く塗ってたらわかんねーよ」

「はぁっ?!」
 
  蛯原さんが怒ると、岡田は、
 
「だからいちいち目くじら立てるなって。イジられなくなったらお終いなんだから」
 
 もっともらしい事を言って席を立った。
 
「それ、イジってるの違うじゃない!」
 
 こんな人に泥パックの効果があるかどうか答えを求める辺り、蛯原さんはまだまだ甘い。
 
 この岡田は、完全に ″あっち ″の人で、女にまるっきり興味がないんだから。
 
 
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