一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋
 昨日から予測はしていたけれど、やっぱり、 霧島神宮の次の予定地の桜も、殆ど散ってしまっていた。
 
「楽しみにされていたのに、申し訳ありません」
 
 バスの中でお客様に謝る。
 
「ほんとクソみてーなツアーだ、どうしてくれんだよ?、金、返してくれるのかよ?」
 
 そう、罵声を浴びせてきたのは、まだ午前中だというのにビールを飲んでいる南条さんだった。
 
「いえ、それは出来ないです……」
 
 昨日とは質の違う絡みに、ちょっとだけおののいた。

「じゃあ、せめて客を楽しませてくれよなぁ」
 
  何?
  昨夜までの性的なからかいとは違い、どことなくトゲのある言い方をする南条さん。
  バスの中がざわめく。
 
「……そうですね、桜より楽しめる場所を急遽探します」
 
 こんなこともあろうかと、代案を昨日の打ち合わせで考えていた。
  けれども、
 
「今、つまんねーんだよ! 添乗員ならバスの中を盛り上げろよ! 歌とか唄ってさー! 野球拳でも構わねーぞ!」
 
 南条さんは、私を困らせるようなヤジを飛ばし続ける。

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