一夜だけの恋も、重い愛もいりません。〜添乗員しづの恋

 
 目的地に着き、蛯原さんと並んで下車するお客様に言葉をかける。

「いってらっしゃい!」
 
三宅くんが降りる時は、蛯原さんの声は数段、高くなっていた。
 
「マイナスイオンで癒されてくださいねー」
 
本当に分かりやすいんだから。

「足場が悪いですので、お気をつけください」
 
 昨夜、一波乱起こした木下さんは、ずっと私の顔を見なかったけれど、お父様の方は、

「あんたは優しくて賢い、いい娘さんだ」
 
補助をする私に微笑んでくれた。
 
「賢くは、ないよな?」
 
と、水をさすような一言を言ったのは岡田だ。
 
 運転席を睨んでいると、ようやく最後に南条さんがノロノロと降りてきた。
 ビールではなく、今度は焼酎の匂いが漂った。
 
 「お気をつけて」
 
 こんなフラフラで観光できるの?
 
 声をかけた私に、南条さんは凄んだ視線を向けくる。
 
「淫乱添乗員。AVだけじゃなく実際にいるとは思わなかったね!」
 
 

 
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