エリート弁護士の神崎くんは、初恋を拗らせている

回想~出会い

 三年生の教室に差し込む春の日差しは柔らかくて、最後の中学生活をどこか儚く照らしていた。

 教室に入ると、来た順にくじを引いて席を決めるよう担任に言われる。
 朱里の席は前から四番目、窓際から二番目だった。
 古びた机に鞄を置き、椅子に腰掛ける。周囲を見渡せば、見慣れない顔と、知っているようで知らない顔が混じっていた。

 そのとき、隣の窓際の席に一人の男子が座る。

 名前は知らない。けれど、去年のクラスが隣だったから、見かけたことはあった。

 無表情で、必要以上に話さない。制服はきちんと着ているのに、どこか雑で、距離を感じさせる佇まいだった。
 目が合うと、なぜか印象に残る。心の奥に鍵をかけているような目。

 彼は教科書を机に置き、俯いたまま無言で座った。

「私、藤井朱里。よろしくね」

 思い切って声をかける。
 彼は一瞬だけ視線を上げ、僅かに頷く。

「……ああ」

 それだけだった。
 少し掠れた、思っていたより低い声。
 朱里はそれ以上、何も言えなかった。

 放課後。
 教室を出る前にふと振り返ると、彼はまだ席に座っていた。開いた教科書の向こうで、窓の外を見ている。
 その視線の先には、青く澄んだ春の空。

 なぜか、その横顔から目が離せなかった。

 ──それが、神崎朔也との出会いだった。
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