青に溶ける、きみ。
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「夏井、消しゴム貸してくんない?」
ミーンミーン、と蝉がやかましく空を埋め尽くす中、教室のざわめきに先生の声はかき消されていく。
でも、彼の声だけは、どれだけ遠くにいても、胸の奥まで届くようで――不思議だ。
「どうぞ」
手渡すと、屈託のない笑顔が返ってくる。
サンキュ、って小さな風のように流れた。
晴海、また消しゴム忘れたらしい。
最近、ずっとこのやりとりばかりだ。
新しいの買えばいいのに、と思いながらも、口には出さない、そんな気持ちが夏の光に溶けていく。
「助かった」
返された消しゴムに、心の中でそっと「お役目ご苦労」と労いながら、ほんの少しだけ顔を上げれば、晴海の頬が赤く染まっていた。
地球がじりじりと熱を帯びるこの夏、窓際の席は、晴海にとってかなりの苦行らしい。
エアコンからは冷たい風が届くけれど、ほとんどが廊下側へ流れていってしまう。
ただでさえ暑がりな晴海は、胸元をパタパタと扇ぐ仕草。
その小さな動きに、夏の光と風が揺れて、教室の中の時間も、どこかゆっくりと流れていく気がした。