妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 確かに私は何度かアダン様の休憩中に、共に食事をして話していることがある。彼はもしかしたらアダン様と一緒に食事をしたかったのか。
 いつもぶつかってくるのは、食事後に多い気がする。色々な情報が一本の糸で繋がっていき、最終的にはイルゼさんの推測が彼の主張のように見えてくる。

 そこまで考えて、私は頭を捻った。
 今まで私はそんな気持ちになったことはあるだろうか。
 病気のお母様が放置され、亡くなって……葬式中は閉じ込められて……。もう父親はいないんだ、と私は自分に言い聞かせてから、感情が湧かなくなったのだ。
 だからイルゼさんの話を聞いて思ったのだ。ノアくんが表情に出すほど、感情が豊かであること……それが羨ましいと。また一歩私の心も揺れたような気がした。

 そしてある日。
 イルゼさんとは別行動で私は王宮内を散歩していた。最近は倒れることもなく、お医者様からも『問題ない』とお墨付きをもらったこともあり、一人で歩くのが日課となっている。
 
 最初はイルゼさんも「エーヴァちゃん……ノアの事、大丈夫?」と心配していた。けれど、私はノアくんとも関わってみたいと思ったのだ。もしかしたら一人の時の方が、彼との関係も進展するかもしれない。
 上手く言えたかは分からないが、イルゼさんも私の考えを汲み取って下さったらしい。

「何かあれば教えてね」

 それだけ伝えて私の考えを尊重してくれた。この数日は私もあまり散歩に出なかったので、ノアくんと会わなかったけれど……今日は何となく会えるような気がする。

 初めてノアくんと衝突した曲がり角までやって来た。すると、誰かが走ってくる音がする。多分ノアくんだろう。
 私は足を一歩出そうとして、すぐにまた下がる。その瞬間、ノアくんが目を見開いてこっちを見ながら走って来た。また彼は私がぶつかるように仕掛けたのだろうけれど、何度も当たったら、痛いと思うの。
 
 目の前を走り抜けようとするノアくんの右手を、私は咄嗟に掴んだ。すると、彼は勢いよく後ろにつんのめってしまう。
 彼は私の行動を見て、最初は何度も瞬きをしていたのだが……しばらくすると、怒りが湧いてきたようだ。
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