妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 ノアくんが縮こまるにつれて、声もどんどん小さくなっていく。そんな彼の様子を見て――。

「これが、羨ましい……嫉妬……という感情なのでしょうか?」

 私は思わず口に突いて出てしまう。言葉にすると、胸の奥がざわめいたような気がする。
 そんな私の言葉を聞いたノアくんは、私を凝視した。開いた口も塞がっていない。私が首を捻っていると、ノアくんは恐る恐る私に訊ねてくる。

「お姉さん、感情がわからないの……?」
「そうですね……嫉妬という感情を持ったことがないから、分からないのです」

 血の繋がった公爵は年に数度しか顔を合わせない。そんな人を親だと認識するだろうか?
 リリスは公爵が自分を構ってくれるということに優越感を抱いていたようだけれど……そもそも親だと思っていない人が誰と付き合っていても、私は『ああ、そう』と思うだけなのよ。
 
 ただノアくんの話で、嫉妬という感情を少し理解できた気がする。
 嫉妬の感情が生まれるのは、きっと相手のことが大好きだからなのでしょう。私はお母様以外そんな人はいなかったから、嫉妬することもなかったのかもしれない。

「お姉さん、お父さんかお母さんを取られてズルいなって思ったことない?」
「そうですね……公爵……いえ、父とは顔を合わせるのも数えるほどでしたから、そういう感情はなかったかもしれません」

 私はノアくんに訊ねられ、少し考える。
 言ってみれば、公爵家の使用人よりも顔を合わせる回数が少なかったもの。知り合い程度にしか思えないのよね。
 それよりも久しぶりに父と呼んだけれど、やっぱり公爵が父であるという実感はない。

 私の言葉にノアくんは唖然としている。

「ノアさんを嫌な気持ちにさせたのだろうな、ということは分かりました……私もそこまで気が回らず、申し訳ございません」
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