妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

第10話 ネレイダ王国の街

 イルゼさんにノアのことを話すと、すぐに話を付けてくれ、翌日からノアはアダン様達と食事をとることができるようになった。むしろレナートさんが『昼くらいは執務室から出ましょう』とアダン様に告げたことで、目の前の庭にあるテーブルで食事をとることが決まったのだ。
 元々アダン様は食事に執着しないためか『時間がもったいない』と執務室で食べていたのだそう。けれどもノアの話を聞いて、レナートさんの提案を呑んだのだそうだ。

 折角だからと準備はイルゼさんとノア、私の三人が担当した。
 書類仕事の多いアダン様を引っ張り出しているのは私達だ。準備させるのは忍びない。そのためレナートさんにテーブルと椅子出しだけをお願いし、それ以外は三人で準備することになった。

 最初は二日や三日に一度だった昼食会が、いつの間にか毎日行われるようになり……ノアは毎日それを楽しみにしているようだ。
 時にはイルゼさんやレナートさん、一度だけ警備隊に所属しているエルマーさんも共に食事をとったことがある。皆で話しながら食事をするのは、こんなに楽しいものだったのか……と胸が温かくなった。

 

 そんな日々が一ヶ月以上続いた頃。
 今日はアダン様とノアと私の三人だった。いつもであればノアの言葉に相槌を打ち、少し口角を上げて楽しそうに話を聞いているアダン様。けれども、今日はノアの話をどこか上の空で聞いている様子だった。
 
 ノアもアダン様が普段と違うことに気がついたのだろう。私と視線が交わった彼も首を傾げている。
 
 ノアと私が話を止めてアダン様を凝視していると、静まり返った空気を感じ取ったのか、彼は私達二人へと顔を向けた。
 それと同時に、ノアが困惑した表情でアダン様に声をかける。

「アダン様、今日はなんか変だよ? 大丈夫?」
「ああ、すまない」

 ノアの不安そうな表情に、アダン様の視線が釘付けになる。そして気まずそうに頬を掻いた後、頭を下げてから告げた。

「……エーヴァ嬢がここに来て一ヶ月ほどだろう? そろそろ頃合いかと思ってな」
「……頃合い、ですか?」

 アダン様が何を言いたいのか分からず、疑問を覚えていた私。一方で、ノアはアダン様の言いたいことを理解したようだ。

「もしかして街の散策に行くの?」
「ああ」

 まだ話が見えてこない私に、ノアが教えてくれた。
 アダン様は王宮に留まっている私に街を見せようと考えていたらしい。ノアも以前アダン様と同じやり取りをしたことがあったので、覚えていたそうだ。
 確かに私は王宮に住まわせてもらっている。そう考えて、私はあることに思い至った。

 アダン様は何も言わないけれど、いつか私はここを出て、自力で生きていけるようにならなければいけない。そのための下見なのだろう。

「エーヴァ嬢も行くか?」

 考え込んでいた私にアダン様は声を掛けて下さる。私はすぐに「お願いします」と頭を下げた。それと同時に、 「僕も行く!」そう飛び跳ねながら楽しそうに声を上げるノア。けれども、その声がどこか遠くで聞こえているように思える。
 
『お前もあの女と逝けば良かったのに』

 耳元で継母の声が聞こえたような気がした。
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