妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
 陽が傾き始めた頃、私たちは王宮に帰ってくる。ノアは幾つか欲しい物を買ってもらったらしく、ずっと満面の笑みで過ごしていた。その中には勉学に必要なものも入っていたらしく、それを見たイルゼさんが驚いて何度も瞬きしていたくらいだ。
 昼食の時間を共にするようになってから、目に見えてノアは落ち着いた、と彼女も言っていた。やはり、アダン様と会えなかったことが、彼にとって堪えていたのだろう。

 楽しそうに話すノアを見ると、私も自然と口角が上がる。彼に笑顔が戻って良かった、と私は思った。

 お土産を開封したいと言って先に部屋へと戻るノアに別れを告げ、私も自室へ戻ろうと足を踏み出す。すると、なぜかアダン様も付いてくるではないか。
 彼と視線が交わる。

「もうすぐ暗くなる。送ろう」

 私が不思議そうな表情で彼を見つめていたからだろう。彼は私が断りを入れる間もなく、隣を歩いている。申し訳なさを感じつつも、私はそれを受け入れた。

 私たちの間に会話はなく、廊下に響くのは足音だけ。
 それでも居心地悪さはない。むしろ気持ちが穏やかになるような気がする。

 その後も無言のまま……いつの間にか部屋の前に辿り着いていた。寂しさを感じるけれど、アダン様にご迷惑をかけるわけにはいかない。そう思って、彼にお礼を告げようとしたその時――。

「これを」
「えっ……?」
 
 目の前に差し出されたのは、首飾りだった。しかも、私が気にかけていた――。
 思わず私はアダン様の顔を覗き込む。何故これがここに? と声を出そうとしたのだけれど、唇が震えて声を上手く出すことができなかった。

「あの時、触れようとしていただろう」

 その言葉で私は目を見開いた。手を伸ばしていたところをアダン様に見られていたのだろう。
 そういえば、アダン様はあのお店を出るとき……『店主に話がある』と言って私とノアを先に次の店へと送り出していた。
 もしかしてその時に購入していたのかしら……?

 私は再度、手の上に置かれている首飾りを見る。
 多分これは私のためにアダン様が購入してくれたものだろう。受け取らないのは失礼なのでは……そう考えて右手を動かそうとするのだが、まるで石になったかのように重く、微動だにしない。
 
 これを私が受け取って良いとは思えなかったのだ。
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