妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜
「ですが……」

 狼狽えている私に、アダン様は痺れを切らしたのか……首飾りを自分の元へ戻す。私はその様子を見て、どこか安堵している自分がいた。
 私にあれを受け取る資格はない。

 だって……私は彼に何も与えられていないのだから。

 私は無意識に俯いていた。アダン様の顔を見ることができない。
 すると、彼は私に近づくと……首に何かを掛けた。そう、あの首飾りだ――。
 
 私が顔を上げると、アダン様と目が合う。
 彼の笑みは穏やかで……私の心が騒めいた。

「使ってくれ」

 首にかけられてしまったら、拒否するわけにもいけない。私は無自覚で胸元の飾りに触れていた。
 水色の石と金属の部分の冷たさを感じる。それが思考に耽りそうになる自分を現実へと引っ張り出してくれた。何か胸の奥から熱いものが込み上げてくる。私はその熱を押し留めてから、やっとのことで彼にお礼を告げた。
 
 部屋に入った私は、もう一度見たいと思い首から外す。そしてアダン様から渡されていた箱の中に、それを収めた。
 明かりの下で煌めく水色の石。その石は今の私が身につけるのに気後れするほど、透き通っている。私の心の中は様々な感情が混じっていた。色で例えるなら黒に近い色だと思う。

 石を見ていると私は彼のことを思い出す。

 水に身を投げた私を助けて下さったアダン様。
 レナートさんの話を素直に受け取るアダン様。
 ノアの話をしっかりと聞いて、相槌を打つアダン様。
 
 確かにあの方は言葉数が少ない。けれど、表情や行動を見ていれば、相手を気遣っていることは理解できた。
 
 あの方を見ていると、私は心の中が温かくなる。
 隣にいて、もう少し一緒に居られればなぁ、と思う気持ちも。

 きっと私はこれまで覚えたことのない……名も知らぬ感情をアダン様に抱いているのだと思う。

 けれども心の中で警告してくるのだ。
 私が……その知らぬ熱を受け入れて良いのか、と。

 もう一度私はアダン様に渡された首飾りを見る。光を反射して華やかに輝く石。私にはその美しさは似合わないような気がした。
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