訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
夢の続きは初デートで
「まぁ! 今日もとってもステキっ! こんなに素敵な央輔さんとデートだなんて、杏璃が羨ましいわ~!」
窓辺から差し込む麗らかな陽光が心地よい休日の朝、高邑家には春の嵐が吹き荒れていた。
どういうわけか正式な交際をすることになってしまった、鷹村央輔が高級車で来訪したのを玄関ホールで待ち構えていた晴子が大はしゃぎで出迎えているところである。
今日は、杏璃と央輔の〝初デート〟なのだが……どうにも頭が追いつかない。
晴子から寝起きにカウンターアタック並みの衝撃を食らった杏璃の頭は、一週間が経過してもなお、春の嵐のごとく混迷を極めている。
見合いの日、ホテルで気絶してからの記憶がないのだから当然だ。
あの後、晴子に詳細を聞いたところ、央輔は気絶した杏璃をご丁寧にも家まで送り届けてくれたらしい。
その際、見合いの報告に訪れていた晴子がさり気なく返事を伺うも、央輔はその話題を躱すかのようにして、医師としての助言だけを残しクールに颯爽と帰っていったのだという。
その反応から、色よい返事は期待できない。晴子はそう思い肩を落としていたらしい。
が、しかし、それから数時間後、神の気まぐれか、はたまた質の悪い悪戯か、事態は思わぬほうに舵を取ったのである。
気落ちして帰宅した晴子の元に、洋輔から色よい返事があり、杏璃に直接知らせようと、今か今かと朝を待ちわびていたらしいのだ。
喜色満面の晴子から話を聞いた杏璃は、余計に首を傾げるしかなかった。
無理もない。
醜態をさらし迷惑しかかけていない杏璃に、気に入られる要素がないのだから。
ましてや、相手は日本屈指の財閥企業の御曹司だ、人間国宝の孫ではあるが一般人の杏璃とは釣り合いがとれないと思うのだが……。晴子曰く、先方はえらく乗り気であるらしい。
この一週間、いくら思考を巡らしてみても、納得のいく結論は出ないまま、疑問符は増えるばかりだった。
おかげで、疲れているのになかなか寝付けず、寝不足だ。
その上、今朝も早くに、張り切りまくりの晴子にたたき起こされて、服選びはもちろんメイクまで施された。
普段、お洒落に関心のない杏璃を見かねての親心だというのは理解しているし、非常にありがたいことだと思う。
けれど、ここのところ入園児の受け入れ準備に追われて疲れていたうえに、睡眠不足気味だった杏璃にとっては、ありがた迷惑でしかない。
(親心というなら、約束の時間ギリギリまで寝かせてほしかった)
などという杏璃の切なる願いは誰にも届きはしない。
「いってらっしゃ~い!」
代わりに、晴子の明るい声と家族(ふたりの兄を除いて)の声とが軽やかに弾んで杏璃の背中は押しやられてしまう。
ちなみに、祖父母と伯父夫婦は、これまで色恋に疎かった杏璃にようやく春が来たと言って、涙ながらに喜んでいた。
杏璃が止めなければ、お赤飯まで用意しかけたほどだ。
ふたりの従兄に至っては、意気消沈し、もはや生きた屍状態である。
晴子を筆頭に、家族に盛大にお見送りされた杏璃は、少し前を歩く央輔の姿をチラリと窺い見る。
見合いの日は、クラシカルなスーツ姿だったが、今はグレージュカラーのセットアップというカジュアルな装いだ。
今日も推しにそっくりな麗しい相貌に一切の感情を排した、よく言えばクールな、悪く言えば無愛想な表情で、颯爽と歩みを進めていく。