訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
確かに、見れば見るほどよく似ている。
氷のプリンスが三次元に存在していたなら、瓜二つだったに違いない。
だが、そっくりなのは顔だけのようだ。
氷のプリンスは、愛するアイリスの前でだけ見せる甘い表情と、他者に向ける氷のように怜悧な表情、ふたつの顔を併せ持っている。
それらは、相反する感情の起伏がそうさせているのだ。
起伏が大きければ大きいほど、アイリスに向ける愛情の深さがどれほどのものかを表している。
央輔も、一見すると怜悧な印象を受けるが、よく見ると、ただ表情が乏しいだけの無表情にしか見えない。
感情の動きというものがないのだ。
そりゃ、そうだ。推し本人ではないのだから。
推しに激似の央輔との出会いに、昂ぶっていた感情が潮が引くかのごとく、スンと鳴りを潜めてしまっている。
初見では、驚きのあまりパニック状態に陥っていた。そのせいで、冷静さを欠いていたのだろう。
平常心を取り戻した杏璃は、央輔がどうして縁談を進める気になったのかを探るべく、再び央輔に意識と照準とを合わせた。
身長一五四センチという小柄な杏璃が見上げるほどの長身だ。
おそらく一八〇センチは優に超えているのではないか。一八五はありそうだ。
品定めするように観察していた杏璃だったが、視線が脚に到達したところで目が釘付けになる。
(うわぁ! 脚、なっが! 少しだけでいいから分けてほしい)
目的を失念した杏璃は、心の中でそんなことを呑気に願っていた。
とそこに、央輔の低い声音が耳元に届く。
「体調はもう大丈夫なのか?」
央輔の長い脚に現を抜かしていた杏璃は、聞き逃してしまう。
反応がないのを案じた央輔が歩みを止めて振り返ってくる。だが杏璃は気づかない。
結果、央輔の広い胸に顔面からダイブするという、何とも間抜けな有様だ。
「ふぎゃ!」
滑稽にもほどがある。
顔面を強打し、低い鼻がめり込んだんじゃないかと思うほどの痛みに、顔を歪ませながら杏璃は自嘲し大いに困惑する。
(なんか、この人に失態ばかり晒してる気がするんですけど……! それなのに、どうして?)
央輔にしてみれば、胸にダイブしたまま悶絶する杏璃を放ってなどおけないだろう。
彼は、美容外科医とはいえ医者なのだから。
あの日、ホテルで気絶した杏璃を介抱した時同様、実に医者らしい行動に出た。
胸に顔を埋めたままでいる杏璃の両肩を央輔がぐっと摑んで、自身から引き剥がす。
「おい、大丈夫か?」
杏璃の眼前には、必然的に推しの顔がぬっと現れる。
瞬間、杏璃の脳裏には、あの夢――氷のプリンスとのキスシーン(未遂)が蘇る。
央輔と氷のプリンスは別人だと理解している。
なのに、推しに瓜二つの相貌に迫られた途端に、冷静さなど吹き飛んでいた。
実際には、迫られてなどいなのだが、杏璃にはそう見えてしまうのだから仕方ない。
(――あーダメ。その顔で迫らないでぇ。また気絶しちゃう)
杏璃は、激しい動悸を覚えつつその瞬間に身構える。