訳あって、お見合いした推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
まず高邑家について説明すると、先祖代々狂言師の家系で、祖父は人間国宝。晴臣もまた、いずれは人間国宝になるだろうと言われている狂言師である。
師匠である祖父と晴臣の指導の下、ふたりの兄も日夜稽古に励んでいる。
祖父も晴臣も、そして従兄も、しばしばメディアに取り上げられるほどの有名人だ。
四人ともキリリとした和風男子で見目にも優れている。
恋愛に憧れながらもこれまで異性に興味が持てないでいたのも、見目麗しく優しい、祖父と晴臣とふたりの従兄の存在があったからだ。
物心ついた頃からイケメンに囲まれて育てば、自然と目が肥え、理想が高くなるのも至極もっともである。
従兄たちが自分のために、稽古場から飛び出し師匠である伯父に異議を申し立てている。……という、親子とはいえ師匠の言葉に楯突くなど言語道断。この世界では珍しい光景だ。
従兄ふたりにとっては、それほどに一大事なのである。
杏璃の母親は未婚の母で、売れっ子のファッションデザイナーとして世界を駆け回っている。会えるのは年に一、二度。多忙な母の代わりに伯父夫婦が杏璃の親代わりをしてくれている。
ふたりの従兄とは兄妹のように育ってきたし、実の兄のように慕ってもいる。ふたりも同様に杏璃のことを本当の妹のように大事に思ってくれているからこそ、案じてくれているに違いない。
しかも縁談の相手というのが、従兄たちにとって同じ流派の狂言師でありながら、近頃映画やドラマに引っ張りだこの若手俳優で、女性との噂が絶えないいけ好かない相手だから余計だろう。