訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました

「杏璃、今、楽にしてやるから、力を抜いて息を吐け」

 杏璃を気遣う央輔の声が届いたところで、どうすることもできない。何度もコクコクと頷くのがやっとだ。

 央輔は杏璃の意識を逸らすように、絡めたままだった指にぎゅっと力を込める。

 央輔を受け入れてしばらくすると、圧迫感が緩んで、呼吸も楽になってくる。

 央輔に言われたとおり、杏璃は身体の緊張を解いて息を吐く。

 すると、いい子だというように、央輔が頭と背中を優しく撫でて、ぎゅっと抱きしめてくれる。

 それだけでなんだか安心して、杏璃はぎゅぎゅっと央輔の身体にしがみつく。

 途端に、切羽詰まった様子の央輔が美貌を歪めて苦しげに呻いた。

「杏璃、あんまり、煽るな。腰を無茶苦茶に振りたくなるだろ」

 どうやら、杏璃の痛みがおさまるまで、自身の欲望を抑えてくれていたらしい。

 同僚から聞きかじった知識でしかないが、マテの状態は相当辛いものだという。それなのに、我慢してくれていたなんて――

 そこまで思考が至った瞬間、杏璃は嬉しくてどうしようもなくなった。

 ――少しでも気を緩めてしまったら、泣き出してしまいそうだ。

(これって、やっぱり央輔さんのこと――)

 結論に辿り着く寸前、杏璃は全力で気づかないフリを決め込むことにした。

 これはアーサー王子のように振る舞う央輔に対しての、誤作動なのだから、勘違いしてはいけない――杏璃は心に強く刻み込んだ。

 そうして、利害一致のソロ活婚を遂行するため、杏璃は夫となった央輔へと意識を切り替える。

「は、早く、楽に……して……」
「……くっ……ああ、わかった」

 しばし、杏璃の言葉に目を見開き驚いた様子の央輔だったが、そろそろ我慢の限界なのかもしれない。

 余裕なく上擦った声を放つと、杏璃の細い腰を掴み己の逞しい腰へと引き寄せた。そして緩慢な動きでゆるゆると腰を揺らめかせる。

 緩慢だった動きが次第にスピードを増していく。欲情に駆られた雄のように『杏璃が欲しい』と言うように、一心不乱に――

 端正な相貌には汗が滲んでいる。時折流れる雫が光の粒のように煌めいて、眩いばかりだ。

 央輔を前にすれば、あんなにも夢中になっていたはずの、推しの存在なんて、すっかり霞んでしまっている。

 出会った頃は、表情が乏しくて、何を考えているかもわからなかった。推しに似ているのは見かけだけ。好きになるなんて、あり得ないとさえ思っていたのに。

 想いを自覚しただけで、こうも違って見えるなんて、知らなかった。

 誰かを想うということが、こんなにも苦しいことだなんて、知らなかった。

 その想いに蓋をすることが、こんなにも苦しくて辛いことだったなんて、思いもしなかった。

 杏璃は、ひどく打ちのめされた心地だ。

 自分の気持ちに気づかないフリを決め込んだばかりだというのに、気を抜けば想いが溢れてしまいそうになる。

 溢れたところで、どうにもならないどころか、央輔を困らせるだけだというのに。

 それなのに――

 こうしている間にも、央輔への想いはどんどん膨らんでゆく。

 央輔の織りなす甘美な愉悦の波に身を委ね揺蕩いながら、杏璃は想いを抑えるのに精一杯だ。

 杏璃に余計なことを考えず集中しろというように、央輔が杏璃の名を幾度も幾度も紡ぎ出す。

「っ、……はぁ……杏璃……あん……り、……うっ、く」
「……はぁ、んぅ……お、央輔さ、おう……すけ……さっん……」

 ただ欲情に駆られているだけなのかもしれない。

 それでも、こうして他の誰でもない杏璃のことを求めてくれている。それがこんなにも嬉しいなんて、自分でもバカだと思う。

 ――でも、いま、この瞬間だけは、央輔とひとつになれたこの幸せに浸っていたい。

 杏璃の願いをまるで叶えるように、央輔が杏璃の華奢な身体をぎゅっと強く抱きすくめる。

 あまりに幸せでどうにかなってしまいそうだった杏璃は、無意識に声を漏らしていた。

「……おかしく……なっちゃう」
「おかしくなればいい。おかしくなって、推しなんて忘れてしまえ」

 央輔が何かを返したようだったが、辛うじて意識を保っている杏璃の耳には届きはしない。やがて杏璃は央輔の腕の中で絶頂を極めた。

 央輔が欲望の証を注ぎ込む感触を全身で甘受した杏璃は、いつしか深い眠りへと誘われていた。

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